【白瀬怪談】小さな男の子

小学生の「私」が夢で見た、男の子のお話。

 

 

私が小学五年生の夏の出来事です。

暑い夏の日差しの中、小学校での授業を終えた私は、家へ向かって田舎道を一人歩いていました。

夕方だというのに、今にも陽炎が踊り出しそうな、そんな蒸し暑さでした。

 

私は両親と妹二人の五人家族でしたが、その日は両親ともに仕事に出ており、妹二人は自動センターに預けられていたため、私が帰った時には家には誰もいませんでした。

北向きにある玄関の、ひんやりとしたフローリングに迎えられ、私はランドセルを放ると靴を脱いでリビングへ向かいました。

 

リビングまでの廊下には途中、階段と、階段下の収納に面した(ひと一人通るのがやっとなほど)細い廊下があるのですが、私がそこを横切ったその時、薄暗い廊下の奥で何かがサッと動きました。

飼い猫が、廊下の奥で涼んでいる。

そう思った私は、廊下を覗き込みました。

しかし、窓のない、陽の射さない廊下の奥はよく見えません。

「たま、いるの?」

私は廊下へ一歩踏み出しました。

 

その時です。

闇の向こうから、私の膝丈ぐらいの大きさの男の子が飛び出してきました。

当時小学生だった私の膝と同じ身長の男の子なんて、そもそもありえません。

男の子は、私の足元まで走り寄ってくると、そのまま膝にしがみつきました。

男の子に驚いた私は、短く悲鳴をあげてその場に尻餅をつきました。

男の子は何も言わずに、私を見てニタニタ笑っています。

 

私は体育座りの姿勢で、男の子を振り払おうと、必死に足をばたつかせました。

すると、男の子はより一層(今度は妙に甲高い笑い声付きで)ケタケタと笑いながら、膝から上へと私の体を這い上ってきます。

学校帰りで疲れていた私は、体力の限界を感じて「もうだめだ」と思い足を止めようとしました。

 

そこで私は目を覚ましました。

私の体は汗びっしょり。

夢と体がリンクしていたと言いますか、寝ながら足をばたつかせていたらしく、踵が妙に痛かったのを覚えています。

随分と、リアルな夢でした。

 

 

ところで話は変わりますが、人間、他人の夢の話ほどつまらないものはないそうです。

だから私は、自分が見た夢の話は、できるだけ人にしないようにしています。

ではなぜこの話をしたのか、それはこの話がこれで終わりではないからです。

 

 

時は流れ数年後、私は中学生になりました。

冬休みの出来事です。

我が家はみんな揃って寒がりなので、家の中に4台こたつが用意してあります。

私はその日、リビングのこたつで暖を取っていました。

すると、別の部屋にいた妹(小学校高学年)が、号泣しながら私のいる部屋に飛び込んできました。

一体どうしたのか、しゃくりあげている背中を撫でながら尋ねると、妹はぽつぽつと話してくれました。

 

妹曰く、別の部屋でこたつにあたりながら映画を見ていたら、いつの間にか眠ってしまったのだそうです。

目が覚めた時には映画は終わっていて、テレビには砂嵐が吹き荒れていました。

すると、ふと左足をひっぱられました。

起きたばかりでボーッとしていた妹は、何の気なしにこたつの布団をめくりあげました。

そこには、自分の足にしがみついてケタケタ笑う小さな男の子がいたそうです。

 

先ほどお話しした通り、他人の夢ほどつまらないものはありません。

ですから、小学生の私が見た夢の話は、妹にはもちろん、誰にも話したことはありませんでした。

一体あの男の子は、何者だったのでしょうか。